タウン誌/ザ・おおさか 北部版/松葉づえのある風景 連載中
makiguchi ichiji
牧口 一二
合名会社 おばけ箱 代表者
被災障害者支援「ゆめ・風・10億円基金」事務局長
障害者文化情報研究所 所長
大阪市立大学、関西学院大学「障害者問題論」非常勤講師
社会福祉「創思苑」理事長
朝日社会福祉賞3氏に 講演や市民運動などを通じて障害者の理解、社会進出に尽力した功績 グラフィックデザイナー 牧口一二 まきぐち いちじ
いのちまんだら 灰谷 健次郎 牧口さんのこと 一世の中に、自分とよく似た人間が三人いる、といわれる。 だとすれは牧口一二さんは、わたしに似た三人のうちの一人だ。(わたしが牧口さんに似ているというべきだろうが) ときどき講演などで、ごいっしよするが、それをいって二人立つと聴衆は大きくうなずいて笑い転げているから、じっさいよく似ているのだろう。 人柄はちょつと違う。 無欲で、あんなエエ人、ちょつとおらんでェというのが牧口さんの方で、わたしは割とひとに冷たく欲深い。 牧口さんは大阪の「障害者」運動の顔みたいな人だ。人々から、マキさん、マキさんと慕われている。 本業(グラフィックデザイナー)を、うっちゃつておいて、松葉づえと帽子とウエストバッグの三点セットのかっこうよろしく、乞われると全国どこへでも出かけていって、子どもたちに「障害」の話をしている。これがメチャ面白く、型破りだ。 「オッチャン、足どどないしたん?」 「オッチャン、足あるん?」「お尻、なんで曲がってんの?」 子どもは遠慮がない。 牧口さんの文章によると、こうなる。 「オッチャン、どっちの足がわるいの?」と二年生の女の子が尋ねてきた。「さぁ、どっちかな?」「そのブラブラしてる右のほうがわるいんやろ」「そう、でもさ、この右足がなにかわるいことでもしたのかな?」アッ? という表情になったその子は、しばらく考えて……「動かへんかったら、わるいこともでけへんのになァ……?」と、つぶやいた。これもまた、ステキな表現である。すでに子どもたちにも「足がわるい、目がわるい、耳がわるい…」という言葉がすんなり入り込んでいて、ボクのいじわるな問いにハッと気づいてくれたのだった。子どもたちの感性は、なぜにこうも透き通っているのだろう。 牧口さんのような人が教師だったら、どんなにいいだろうと思ってしまう。 押しつけないで、引き出し、感じとらせ、気づかせる。そして自分も、ちゃんと子どもから学んでいる。 牧口さんの発想、行動はすべてこの調子である。 阪神・淡路大震災が起きた。いちばんつらい目に遭い、救援の手もあとまわしになるのは被災「障嘗者」である。 牧口さんらは「ゆめ・風・10億円基金」をスタートさせた。 ─小さな、だけど確かな力をいっぱい集めてお金をつくるから使うて!人から人へと熱い想いをひろげて、どしどしお金を集めるから、どんどん使うてええんよ! だいじょうぶやって、なんとかなる! なんとかせなアカンもんなぁ…… 一人が十年問一万円、一年では千円、月なら百円足らず、という考えはすごい。十万人が賛成してくれれば夢は夢でなくなる。 こんど牧口さんは「ちがうことこそええこっちゃ」(NHK出版)という本を出した。そこにこんな話が山ほど詰まっている。お買い得です。(「ゆめ・風・10億円基金」、連絡先=〇六・三二四・七七〇二) (作家) 1998年 7月15日 水曜日 朝日新聞/家庭 より
朝日社会福祉贈呈で喜びの2人 柏木さん ホスピス発展に尽力 牧口さん 賞金は被災障害者へ 表彰を受ける牧口ーニさん =いずれも朝日新聞東京本社で 一九九八年度の朝日社会福祉賞に選ばれた大阪大学人間科学部教授柏木哲夫さん(五九)=茨木市南春日丘五丁目=とグラフィックデザイナー牧口一二さん(六一)=城東区森之宮一丁目=が十八日、東京都中央区の朝日新聞東京本社であった贈呈式で、正賞のブロンズ像と副賞二百万円を贈られた。 受賞のあいさつで二人とも「多くの人に支えられたおかげ」と喜び、牧口さんは副賞の賞金をすべて阪神大震災で被災した障害者のための基金に寄付することを明らかにした。 柏木さんは、ホスピス運動の先駆者として末期がん患者のターミナルケア(終末期医療)の普及、発展に尽くしてきた。牧口さんは障害者としての体験を基にした講演を小中高校で続ける一方、障害者にやさしい町づくり運動の先頭に立つなど障害者の理解、社会進出に情熱を注いできた。 それぞれの功績について、朝日新聞社の神塚明弘専務が「素晴らしい取り組みをされてきました。改めてその努力と成果に敬意を表し、末永くご活躍されるよう祈っています」とたたえた。 柏木さんは妻の道子さんと(五八)と出席。祝福に対し、「六年前に淀川キリスト教病院から大阪大に移っ たが、週二回は病院でホスピス医療の指導をしている。がんで亡くなる人のうち、ホスピスの患者は二%未満。まだまだホスピスの数が必要だし、質も考えなければならない問題がある。ホスピス発展のため、もうひと頑張りしたい」と述べた。 右足が不自由な牧口さんは車いすで会場を訪れた。 松葉づえであいさつに立ち、「七〇年代初め、全国の障害者たちが障害者に配慮のない社会に対し、体をかけて町に繰り出した。その行動に感路を受け、お手伝いをしてきただけ。代表者ということで受賞したのだろうが、障害者が町に出たことの“すごさ”が表彰されたとしたら心からうれしい」と語った。最後に、被災した障害者を支援する「夢・風・10億円基金」の事務局長として基金の重要性を指摘し、賞金を基金に役立てる考えを示した。 1999年1月19日 火曜日 朝日新聞より